<47>冷えた身体を包み込む優雅なアップルパイ/銀座トリコロール – 朝日新聞



 アップルパイは、冬の食べ物である。

 暑い季節が似合わない。

 冷えた身体を、リンゴの甘みとパイの優しさが温めてくれる、冬がやはり似合う。

 それにリンゴ自体も甘く酸っぱくなって、実力を発揮するのは冬である。

 アップルパイが食べたくなると、銀座の「トリコロール」を目指す。

 まず、入り口の回転ドアがいい。

 昔は回転ドアのある飲食店が多かったが、回転ドアを押して、日常から非日常へと入る気分は、もう他では味わえなくなってしまった。

 高い天井がゆったりと広がる店内に座り、「アップルパイとコーヒーをください」と、頼む。

 アップルパイとコーヒーだけなのに、なにか優雅になった気分である。

 この店のアップルパイは、毎朝、りんごの皮をムキ、切って煮詰め、パイに詰めて焼いている。

 だから朝一ではまだ用意がなく、午前中の出来立てに当たれば幸せこの上ない。

 店内で作っているので、パイが実に香ばしく、リンゴの甘酸っぱさを引き立てる。

 口に運んだだけで、パイの香しさが漂ってよだれを誘い、食べれば柔らかくなったリンゴが舌にしなだれて、甘えてくる。

 そいつを、上顎(あご)と舌でゆっくり潰してやる。

 パイの豊かな風味にリンゴの命がしたたり落ちて、春の日だまりに包まれたような満ち足りた気分が訪れて、眼を閉じる。

 そこでコーヒーをひとすすり。

 ここのコーヒーは、ミルクを小さじに1杯、砂糖を小さじ半分程入れて混ぜると、がぜんおいしくなる。

 苦みや酸味の角が取れてまろやかになり、穏やかにアップルパイに寄り添うのである。

 こうして優美な時間を一人、じっくりと楽しむのだが、皆さんアップルパイはどのように食べられるのだろうか?

 大抵は、三角に切られた頂点から食べ出す方が多いと思う。

 とんがった部分を食べ、次第に幅の広い方へと移動し、最後はパイだけになった奴を食べる。

 その間、横にクリームやアイスクリームがついているなら、パイの上に乗せて食べている方が多いと思う。

 それでも十分おいしいが、私は違った食べ方をする。

1)まず先端部分をそのまま切り、シンプルな味を楽しむ。

2)次にパイだけ部分を切り取り、さらに二等分する。

3)パイだけ二等分の一切れに、リンゴを乗せて楽しむ。パイ量が増加した分、1とは違う味わいとなる。

4)次に幅広部分を横半分に切り、上のパイ生地を少しはがし、クリームなどを挟んで食べる。おいしい。(追いクリームをしてもよい)。1の段階と4の段階でリンゴはパイからはみ出すが、それは戻さない。

5)最後の幅広部分は、またシンプルにリンゴとパイを楽しむ。

6)そしてシメである。残ったパイ生地だけの部分にクリームを乗せ、リンゴをのせ、クリームを少し乗せて一口でいく。とてもおいしい。

 いかがですか?

    ◇

トリコロール
東京都中央区銀座5-9-17
TEL:03-3571-1811

 昭和11年(1936年)銀座に創業。ネルを使用した、香り高いハンドドリップコーヒーで常連客も多い。アップルパイの他、エクレアも名物。注文後にクリーム挟んで提供するので、生地が湿っていない。食べればサクッと軽やかな音が立って、中のクリームに歯が包まれる。この感覚は他ではなかなか味わえない。




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