2017年04月06日19時52分 更新 – HOME’S PRESS(ホームズプレス)



アパレルデザイナーやハンドメイド愛好家が注目する「繊維のビル」

愛知県一宮市の中心市街地の一角、駅から徒歩3分ほどの距離にあるビル「Re-TAiL(リテイル)」。実は今、このビルがアパレルデザイナーやハンドメイド愛好家たちの間で注目を集めている。

館内に足を踏み入れると、1階には「RRR MATERIAL PROJECT(アール・マテリアル・プロジェクト)」という名称の店舗が入居していた。売場一面に置かれているのは、一宮市を中心とした服地の産地「尾州」で作られた毛織物などの上質な素材だ。一般には流通しないサンプル品や端切れ、ごく小さなキズで出荷されない反物など、大量の「眠れる素材」が並べられている。その数およそ2000種類。世界のアパレルブランドが評価する一級品を安価で入手できるとあって、洋裁や手芸の愛好家、プロデザイナー、学生からシニアまで幅広い層から支持を集めている。

館内にはほかにも、ものづくり工房や服飾デザイナーのアトリエ、アパレルメーカーなどが入居。立席で約200名収容できるホールなどもあり、この場所を利用した展示会やライブ、各種イベントなどが開催され、いずれも好評だ。

今では市外からも多くの人が詰めかける「Re-TAiL」。だがこのビル、実は数年前まで取り壊しの危機に瀕していたのだ。

(右上・左上下)2017年4月から本格的にスタートするバックアーティストスクールの受講風景。定番のバッグの作り方を型紙、裁断、縫製と基礎から習得できる。(右下)「RRR MATERIAL PROJECT(アール・マテリアル・プロジェクト)」の売場(右上・左上下)2017年4月から本格的にスタートするバックアーティストスクールの受講風景。定番のバッグの作り方を型紙、裁断、縫製と基礎から習得できる。(右下)「RRR MATERIAL PROJECT(アール・マテリアル・プロジェクト)」の売場

地域のランドマークだったが、2015年には取り壊しの危機に直面

「Re-TAiL」の旧名称は、「尾西繊維協会ビル」。1933年に建造され、一宮市の繊維産業の繁栄を象徴する建物として長く利用されてきた。ところが、全事務所が合同で新築ビルに移転することが決まり、そのまま入居者が現れなければ、2015年秋頃には取り壊され、その後、駐車場へと変わる予定になっていた。

建物は鉄筋コンクリートの3階建て。白いアーチ窓と茶色のタイル張りの外観が印象的で、館内の天井や壁を見るとアーチ構造や装飾文様が施されている。1945年7月の空襲で市街地一帯が焼け野原になった時にもその被害をまぬがれ、毛織物の服地の産地として栄華を極めた時代の遺構として近代化産業遺産にも指定されている。地域のランドマークである洋館だけに、地域住民からは取り壊しを惜しむ声が上がっていた。

そんなビル存続の危機を救ったのは、一宮市出身でデザイン事務所を経営する稀温(きおん)さんだ。このビルで2014年から2年間にわたり、地元繊維メーカーの服地を販売するイベント「RRR MATERIAL PROJECT」を半年ごとに開催。予想の2倍以上の来場があり、確かな手応えを感じていたのが再生に名乗りを上げた理由だ。イベントを支えた繊維メーカー数社と共に新会社「リテイル」を設立し、2016年1月にはビルを丸ごと一棟借上げて服地を常設販売するショップをオープン。10あまりのテナントの誘致も進め、繊維やデザインをキーワードにした新たなビルとして再出発を果たした。

(右)館内には往時を偲ばせる趣深い雰囲気が漂う。(左上)立席で約200名まで収容できる大ホール。各種イベントが開催されている。(左下)小規模な展示会や個展などにちょうどいいサイズの「クリームルーム」。大ホールの控え室としても利用できる(右)館内には往時を偲ばせる趣深い雰囲気が漂う。(左上)立席で約200名まで収容できる大ホール。各種イベントが開催されている。(左下)小規模な展示会や個展などにちょうどいいサイズの「クリームルーム」。大ホールの控え室としても利用できる

イベント準備で面白い生地を続々発掘し、「これはいける」と確信

「RRR MATERIAL PROJECT(アール・マテリアル・プロジェクト)」の店内には所狭しと服地が並べられている。端切れやサンプル品などを取り揃えており、高品質の素材を小ロット・安価で手にできるのが魅力だ「RRR MATERIAL PROJECT(アール・マテリアル・プロジェクト)」の店内には所狭しと服地が並べられている。端切れやサンプル品などを取り揃えており、高品質の素材を小ロット・安価で手にできるのが魅力だ

稀温さんは、東海地方最大規模を誇るクリエイターたちの祭典『クリエイターズマーケット』の立ち上げメンバーの一人。また、2001年には、栄の路地裏で若手作家らがオリジナルの服や雑貨を販売し、人気を集めた『さくらアパートメント』を開設した実績も持つ。

「最初にビルを取り壊すと聞いた時は、『本当に?』と正直驚きました。昭和8年に生まれてからずっと繊維のビル。これを活用しない手はないと思ったのです」と稀温さん。「世の中のリノベーションブームやハンドメイドブームを知らない建物の大家さんは、このビルを活用すると言っても半信半疑。『端切れなんて売れないよ』とか、『こんな古いビルを借りたい人はいないよ』なんてよく言われていました」。

企画当初は不安だったが地場産素材を知るうち、「これはいける」と感じたという稀温さん。「今ではインターネット上にも、ハンドメイド作品を気軽に発信できるマーケットがあふれています。ただ、多くの人が肝心の材料の入手に困っているのではないかと思ったのです。特に名古屋では、一般の人が素材を購入する場所となると、選択肢が豊富ではありません。そこでイベントを思い付いたのですが、準備を進めていくうちに面白い生地が次々と出てきたのです。『これは間違いなく人が来る』。そう感じましたね」。

再生を果たしたレトロビルが担う「尾州」ブランドの再興

「Re-TAiL(リテイル)」の運営責任者を務める稀温さん「Re-TAiL(リテイル)」の運営責任者を務める稀温さん

今後の課題は、いかに来場者を呼びにいく仕掛けを作るか。そのためにも、ビル単体ではなく、近隣のスポットを含めて1日楽しめるような流れを作りたいと稀温さんは話す。「例えば、遠方からお越しになった方が、5km圏内で1日楽しめるかというと、まだそうではないと思います。ランチはどこに案内しようかと迷ってしまうくらいですから。ギャラリーやカフェを入れるなど、館内にもまだまだ工夫する余地はたくさんあると感じています」。

2016年11月にはベストドレッサー賞の受賞式に出席した小池都知事が、一宮市のウール生地を使ったジャケットを着て注目を集めたばかり。ここ2~3年は、通販雑誌などでも「尾州」の文字を頻繁に見かけるようになり、世界的な服地の産地としての認知度は着実に高まってきている。

「これまで一宮市の繊維はBtoBの商品で、気軽に冷やかしに来る場所がなかった。それがRe-TAiLにくれば、実際に見たり触ったりできます。東京のデザイナーさんからも『あるのは知っているけど近寄れない』と言われます。ロットが大きすぎて撃沈したという人もいました。そういう人たちが気軽に一流の生地を手に出来る場所になればいいなと思っています。世界に発信するようなプロのデザイナーから、ハンドメイドの愛好家、そして今は何も出来ないという人にも魅力を伝えたい。0を1にするような取り組みもしていきたいですね」(稀温さん)

すべては、「尾州」のブランドをもっと広めるために――。取り壊される運命だったレトロなビルが再生を果たし、そして今、地場産業再興の旗振り役を担いはじめている。

■取材協力

Re-TAiL(リテイル)
http://re-tail.jp/

2017年 04月06日 11時05分


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